第1回 佐々淳行氏「危機管理総論」



去る4月26日、開講記念として「危機管理総論」をテーマに初代内閣安全保障室長の佐々淳行氏に講演していただきました。ここでは、約60分の講演のうち一部をご紹介しましょう。
 危機管理の本質は、一言で言えば「ダメージコントロール」(被害極限措置)です。起こった事件や事故から、個人や組織が受けるであろう損害を最小限にくいとめることなのです。それには、会議にばかり時間をかける農耕民族的なやり方ではうまくいきません。日本人は何か起きるとすぐに会議をしますが、具体的な対策が出てこなければ意味がありませんし、現場の状況は一歩も前進しません。

 今後、日本で非常事態に強い危機管理体制を構築していくには、アメリカのFEMA(連邦危機管理庁:Federal Emergency Management Agency )のような危機管理組織をお手本にすべきです。

 たとえば、1994年にロサンゼルスをおそった「ノースリッジ地震」では、ホワイトハウスへの第一報は地震発生の15分後に入りました。大統領は、ただちにFEMA長官と連絡を取り合い、1時間後には、カリフォルニアの陸・海・空の州兵やヘリコプター、トリアージドクター(TRIAGE DOCTOR:非常時に招集されて災害現場で医療活動をする医師)を総動員し、救援のためロサンゼルスに向かっています。避難所の利用者は約3万人、1万人近くが重軽傷を負い、300万人が何らかの被害を受けたといわれる大惨事にもかかわらず、FEMA方式による対策の結果、死者は61人にとどまりました。

 これに対し、ちょうど1年後のほぼ同時刻に起きた阪神大震災では、地震発生から首相官邸に報告が来るまでにすでに1時間半が経過していました。報告後もまずは閣議が先で、速やかに動くことができず、結果的に6433人の死者を出しました。この事実は、まさに農耕民族的な危機管理のやり方ではだめだという教訓ではないでしょうか。

 危機管理は想像力です。私は、いつも最悪の事態に備えて「心に地獄図を描け」と言っています。何かプロジェクトがあるときは、まず悪い方へ状況を想定すること。インテンショナルペシミスト(自分をペシミストに追い込む)になれというのが、危機管理の鉄則です。

 逆に、非常事態が始まったら、「きっとうまくいく」とオプティミストになるのが理想的なリーダーの条件です。自分が予測していた状況よりも損害が悪くならなければ、人間は不思議と「あ〜良かったと」思えるものです。非常事態に平常心で対応するためのたった1つの道は、イマジネーションを働かせ、最悪の事態を覚悟しておくことだということをぜひ心得ておいてください。
「危機管理」の先駆者として、多くの具体例を交えた佐々氏のお話に100名近い聴講生からは大きな拍手が沸き起こり、講演は盛況のうちに幕を閉じました。



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