第6回 安藤生大 助教授
「循環型社会と廃棄物の危機管理〜紙のリサイクルから循環型社会を考える」




10月25日、サテライト講座の第6回として千葉科学大学環境安全システム学科助教授の安藤生大氏による講演が行われました。ここでは、その一部をご紹介します。
● 国民1人ひとりが「ゴミの3R推進」を

 現在、日本では1人当たり一日1,111グラム、一年で約1キロのゴミを排出しています。このゴミの処理には、年間2兆3,956億円もの費用がかかっています。これを国民一人当たりに換算すると1万8,800円となり、4人家族なら7〜8万円ものお金をゴミ処理のために使っているということになります。

 政府は、家庭から出るゴミに限定して、平成12年度約630グラムだったゴミの排出量を平成22年度には約504グラム、つまり約20%削減することを目標としており、そのために「3R」を掲げています。3Rとはリデュース(発生抑制)、リユース(再使用)、リサイクル(再生利用)のことで、リデュースの最近の手法のひとつが容器包装リサイクル法です。千葉科学大学内ではゴミに対し、びん、かん、ペットボトル、その他という4分別をしていますが、いわゆるその他のゴミは、紙もプラ容器も生ごみも一緒になっています。これを比較的分別しやすい紙類やジュースのパック、プラスチック容器包装に実際に分けてみると、紙製容器包装とプラ容器包装が重さにして4割くらいを占め、あと6割くらいがその中にある汚れたゴミとなるわけです。ですから、容器包装を中心に完璧に分別すれば、それだけで40%ほどゴミの量を削減できることになります。国民1人ひとりが、ゴミの排出量の削減を目標にして容器包装を分別するように心がければ、ゴミの減量はかなり進むと思います。

 紙については、古紙の利用率と回収率を見ると、現在回収された紙のうち60%ほどが再利用されています。資源有効利用促進法による平成17年度の利用率目標値は60%ですが、平成16年度現在ですでに60.4%に達していますから、紙に関しては分別収集やリサイクルがかなりうまくいっているといえるでしょう。


● エネルギー問題への取り組みが急務

 ゴミ問題に加えて、これからはエネルギー問題も重要です。今年発効された京都議定書では、温暖化ガス(CO2、CH4、N2O、代替フロンガス等)の排出削減を目指していますが、各国の温暖化ガスの排出量は、京都議定書の削減目標とはほど遠いのが現状です。たとえば、日本の場合、1990〜2002年の間にすでに排出量はプラス12.1%になっています。経済成長と工業活動によって、CO2の排出量は確実に増えているのです。2003年の段階で、CO2は14.3%の削減が必要で、この目標値を達成するためには、石炭や石油の消費を減らして、再生可能エネルギーやクリーンエネルギーに転換していく必要があります。

 EUでは、2050年を目処に2005年現在の40%までトータルでエネルギー量を削減しながら、ソーラーや風力、バイオマス(メタンガス)などの再生可能エネルギーの割合を増やしていくことを目標にしています。実際、環境先進国といわれるドイツでは、風力による発電量が大幅に伸びています。その理由として、自然保護法の改正で風力発電の施設が海の景観の良いところにも建設可能になったこと、再生可能エネルギー法でエネルギーの買い取り価格が大幅にアップしたことなどがあげられます。また、住宅エネルギーの効率化を図り、石油の消費量を減らす取り組みも進められています。すでにドイツで実用化されているパッシブハウスは、ひさしの長さをコントロールしたり、南側に広葉樹を植えるなど、太陽の光をうまく利用する建て方をしてエネルギーの消費量を減らそうと考えられた家ですが、通常の家が年間平均20〜50リットルの灯油を使うのに対して、パッシブハウスなら1.5リットルの灯油量で済むことがわかっています。

 さらに、パッシブハウスにソーラーセルを加えれば、一軒一軒がミニチュアの発電所となり、エネルギーをプラスに転じることもできます。パッシブハウスを取り入れていけば、エネルギー量を劇的に減らす事が可能なのです。このように、EUは2050年を目指して国をあげて再生可能エネルギーの導入に取り組んでいますが、日本では現在のところ国レベルでそういう取り組みはされていません。このままでいいかのどうかというまさに分かれ道にきているのです。


● 環境問題に関心を持ち循環型社会を構築

 ドイツやアメリカの地質調査によると、石油の埋蔵量は、今後新たに出る可能性のある場所もすべて含めて1,180億トンから1,510億トンとされています。石油の消費量が今後、仮に年間約1.5%程度伸び続けていくとすると、残りの埋蔵量では、15年後の2025年には枯渇してしまう可能性があります。2020年には世界人口が72億人を突破して、資源の採掘もピークを迎え、もはや持続的な成長は不可能になると言われています。エネルギーが不足すれば原油価格は高騰し、2020年頃にはガソリン価格は少なくとも1リッター1,000円となるでしょう。通常の市民が石油を簡単に入手できなくなる時代が、すぐ目の前に差し迫っているのです。

 今後私たちは、身の回りの環境問題に関心をもち、容器包装の完全分別や省エネを心がけることが重要です。また、近い将来石油の枯渇が深刻化すると予測されますから、エネルギー問題を真剣に受け止め、個人個人が積極的に再生可能燃料を取り入れるとともに、社会全体で循環型社会の実現を目指していくことが望まれます。
生活に密着した身近で深刻な問題だけに、熱心に聴講される方が多く、講演後も活発に質疑応答が交わされました。



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