第5回 田中厚成 教授「津波の恐ろしさとその対応」



●海底の岩礁が津波の速度を下げ、破壊力を減少させる。
 2004年12月26日、インドネシアのスマトラ島沖で大地震が起きました。これは、1900年以降に起こった大地震の中で4番目に入る大規模な地震で、この直後に発生した大津波によって、死者、行方不明者は合わせて18万人にも上りました。このような大地震が起きるのは、100年に一度とされています。しかし、別の見方をすれば、この膨大な数字は、毎年1800人の死者や行方不明者を出す災害が、100年間続くことと同じですから、本当に大きな災害であったことが分かります。
 津波というのは、5分単位で形状を変えて襲ってきます。たとえば、最初に引き波がきた場合は、5分後に今度は押し波がやってきます。また、津波は、水深が深いほど速度が早くなるのが特徴で、深度が深いところでは、飛行機なみのスピードになります。津波が予測される場合、通常「高台に避難せよ!」と言いわれていますが、5分間でできることを考えると、高台に避難することが本当に最善の方法なのかどうか疑問だと思います。
 津波への対策として、現状では岩礁が非常に役立つことが分かっています。岩礁があると水深が浅くなるため、津波の速度は急激に遅くなります。突然、速度が落ちると、後ろから押し寄せてくる波がそこで全部止められて砕波されてしまいます。つまり、沖合にある岩礁というのは、津波のエネルギーを断ち切ってしまうのに非常に有効なわけです。事実、砕波が起こる前後では、波の高さはまったく違います。
 効果があるのは岩礁だけではありません。今回のスマトラ島沖地震では、インド洋沿岸でも津波が発生しましたが、米軍基地が置かれているある島では、防波堤や避難場所がまったくないにもかかわらず、死傷者が3名しか出ませんでした。これは、非常にまれなケースです。そこで、島を調査してみたところ、周辺に珊瑚礁があることが分かりました。珊瑚礁が津波の被害を防ぐのに役立ったのです。しかし、珊瑚礁は、岩礁ほど丈夫ではないので、津波が持つ大きなエネルギーを簡単に吸収できるはずがありません。それでは、珊瑚礁に津波を防ぐどのような効果があったのでしょうか。これには、自然界のエネルギーの法則が関わっています。

●自然界の法則を生かした津波対策が必要。
 水面の流れが非常に激しい場合、上部ではまったくエネルギーを消費しないのに対し、海底では非常に大きなエネルギーが使われています。そのため、上部と下部の流れの間には、エネルギーのアンバランスが生じています。エネルギーがたまり過ぎると、下の方に縦の渦ができ、この渦巻きに乗って、たまったエネルギーが海面へと運ばれます。自然界で生じたエネルギーのアンバランスは、このような形で周期的に拡散されているわけです。
 実は、珊瑚礁もエネルギーをドンドンため込む性質があります。そこで、エネルギーがたまり過ぎると珊瑚礁からも渦が発生して、それが結果的に水の堤防となり、津波のエネルギーを拡散したと考えられます。
 このように、岩礁や珊瑚礁の効果を学び、自然に逆らわない形の対策を立てることが、今後の津波対策の重要なポイントのひとつといえるでしょう。また、津波が、どの程度の高さで、どのくらいのスピードで、どんな形でやってくるのかを定量的に把握し、分析することも必要です。
 「災害は忘れた頃にやってくる」という言葉がありますが、「災害の悲しみは忘れることしか、対策がない」となってはなりません。18万人の犠牲者を出したスマトラ島沖地震を教訓に、津波の恐ろしさを認識し、しっかりとした対策を考えていかなくてはならないと思います。
 後半は、実際にスマトラ島沖に押し寄せる大津波の映像を見ながら、発生時から終息までの様子が詳しく解説されました。津波の特性を理解すると同時に、その被害の恐ろしさをあらためて実感する講座となりました。



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