第11回 酒井明 教授「外国人労働者受け入れについて〜少子高齢化にいかに対応するか」



 2月27日、サテライト講座の第11回として、千葉科学大学危機管理学部危機管理システム学科の酒井明教授による講演が行われました。ここでは、その一部をご紹介します。
●少子高齢化が日本の未来に及ぼす影響。
 少子高齢化の進展や経済のグローバル化を背景に、外国人労働者受け入れの是非についての論議が活発化しています。日本の労働者人口は、10年ほど前から減少してきており、このままでいくと、2050年には、総人口が9000万人を割り込むともいわれています。これは、最悪のパターンを想定した数字ですが、いずれにせよ、日本が今後人口増加に転じる可能性は極めて低く、経済活動の大幅な低下は避けられません。また、急激な人口減少によって、看護や介護、福祉などの分野において人材不足が生じ、国民の生活に支障をきたすことも懸念されています。一方、経済のグローバル化によって国際競争はますます激しくなり、さまざまな分野で高度な知識や技術を持つ人材の獲得の必要性が高まっています。
 これまで政府は、専門的、技術的分野の外国人労働者を積極的に受け入れる一方、単純労働者の受け入れについては、国内の労働市場をはじめ、経済社会や国民生活に大きな影響を及ぼすとして、制限する方針をとってきました。問題は、今後の方向性ですが、これについては意見が分かれるところです。中長期的な人口減少への対応や競争力を支える労働力の確保のために、外国人労働者の受け入れを促進すべきだという意見がある反面、人口の減少は、これまでの過酷な働き方を変えて、ヨーロッパ型の成熟社会、ゆとりや豊かさを求める社会へ方向転換するチャンスであり、外国人労働者に頼る必要はないという考え方もあります。また、受け入れに伴う外国人犯罪の増加や将来的な雇用機会の縮小、年金・福祉等の社会コストの増加などを懸念する声も少なくありません。
 平成16年に内閣府が行った外国人労働者受け入れに関する調査では、国民の多くが、外国人労働者問題に高い関心を示しました。受け入れを促進するかどうかについては、外国人よりも、まずは女性や高齢者など国内の労働力を活用することを優先し、それでも不足している場合に受け入れるべきだと考える人が多いという結果が出ています。また、朝日、毎日、読売、日経などの新聞各紙は、積極的な受け入れに概ね賛成という見解を示しています。

●外国人労働者をめぐる問題が山積。
 日本の入国管理行政では、在留資格制度を設けています。遊園地で例えるなら、入場券と乗り物券を同時に出すシステムといったところでしょうか。ヨーロッパでは、入国させた後に審査をして労働許可を出しますが、日本の場合は、入国の時点で目的に応じた在留資格や在留期間が決められているわけです。現在は、27種類の在留資格があり、そのうち就労が可能な在留資格は17種類です。また、日本人の配偶者や日系人の場合も、就労が認められています。しかし、留学や就学を目的とした在留資格の場合は、資格外活動の許可をとらないと働くことはできません。
 現在、日本で就労する外国人は、推計で84万人とされています。不法就労者や不法入国者などを入れると、その数はさらに増えて、85万人前後になるのではないかと思います。外国人労働者をめぐっては、さまざまな問題が生じています。たとえば、「外国人研修制度」「技能実習制度」の悪用もそのひとつです。この制度は、本来開発途上国への技術移転を目的に設けられた制度ですが、研修終了後、受け入れ先から逃亡して不法滞在者となったり、逆に受け入れ側が研修生、実習生を低賃金で就労させるといったケースが数多く見られます。また、フィリピンの踊り子など興業目的の就労者に絡む人身売買も大きな問題となっています。日本語能力の不足や文化の違いから地域社会との摩擦が生じ、深刻なトラブルに発展するケースが増えているほか、留学生や観光目的の入国者の不法就労なども後を絶たないのが現状です。

●十分な議論と受け入れ体制の整備が必要。

 それでは、今後、外国人労働者問題にどう対応していくべきなのでしょうか。高度な技術や知識を持つ人材の受け入れに積極的な政府の方針とは逆に、現在の日本では、むしろ中小企業や下請け工場で働く単純労働者に対するニーズの方が高いのが現状です。まずは、こうしたニーズをどこまで満たすのか、どのような体制で受け入れていくのかを十分に考慮し、犯罪を誘発しない環境づくりを進めていくことが必要だと思います。 
 単純労働者への対応のひとつとして、私は、研修・技能実習制度にバイパスを作ったらどうかと考えています。現在の研修・技能実習制度では、最長3年の滞在しか許可されていませんが、3年間で日本語や技術を身につけた後、日本での就労を望む外国人には、永住できる道(バイパス)があってもいいのではないでしょうか。永住への道は、研修生や実習生にとって、技術取得へのインセンティブとなるだけでなく、逃亡や不法滞在を減らし、優秀な人材の確保にもつながるのではないかと思います。
 外国人労働者を受け入れる際は、「人間」を入れるのだという意識を持つことも大事です。外国人労働者は、労働力である前に、「人」であり、生活者ですから、物のようにあっちからこっちへと簡単に動かすことはできません。家族を呼び寄せて日本に生活基盤を築き、帰国しようとしない外国人労働者も増えていることから、一定期間で入国させた場合、彼らをいかに円滑に帰国させるかも考えなくてはならない課題のひとつです。また、日本が世界的な人材獲得競争の中で、高度な外国人労働者を確保していくためには、彼らに日本人と同等の待遇を与えることも非常に重要だと思います。
 いずれにせよ、外国人労働者の受け入れ問題は、少子高齢化に伴う労働不足への対応だけで語れるほど単純ではありません。生活や教育面での受け入れ体制の整備や社会的コストの負担などを含め、今後もさまざまな視点から十分に議論を重ねることが必要だと思います。個人的には、高齢者や女性が活躍できるような雇用環境の改善とIT技術による労働の省力化、効率化を図ることが先決であり、それでも足りない場合に、期間を限定し、日本語能力などの条件を加えながら、外国人労働者の受け入れを行っていくべきだと考えています。
 外国人労働者の受け入れは、日本の将来を左右する問題として、一人ひとりが真剣に考え、国民レベルでも議論を深めていく必要があることを認識させられました。



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