魚の資源と危機管理-1「海の環境は、だいじょうぶ?」
タレント/お魚らいふ・コーディネーター/東京海洋大学客員准教授 さかなクン




 10月21日、「2007トライアルキャンパス」の3回目として、タレントで東京海洋大学客員准教授のさかなクンと、危機管理学部環境安全システム学科教授の永淵修教授による講演が行われました。ここでは、その一部をご紹介します。
●温暖化と汚水が招くサンゴ礁の危機
 サンゴは、「ポリプ」と呼ばれる小さな動物が集まってできています。触手と呼ばれる腕の部分には毒があり、夜になるとプランクトンを捕まえてこれを食べて成長します。サンゴが生息するところには、小さな魚がたくさん集まって来ます。その小さな魚たちを食べるためにさらに大きな魚もやって来て、サンゴの周りには本当に豊かな生態系ができています。サンゴは、赤道の近くの温かい海の沿岸や小さな島の近くに多く生息しています。サンゴ礁の広さは、世界の海のおよそ0.3%と言われています。0.3%と聞くと、とても小さな割合に感じますが、実は世界中の魚の3分の1が何らかの形でサンゴ礁に依存しているそうです。
 今、地球では温暖化が問題になっていますが、温暖化は陸上だけでなく、海の中でも起こっています。海の温度が上がると、魚たちは快適に暮らせるところに移動して住処を変えてしまいます。ところが、サンゴは魚のように移動することができません。例えるなら、サウナの中にずっと閉じ込められているようなもので、どんどん弱ってしまいます。
 サンゴの体内には、褐虫藻という植物がたくさん生息していて、その植物の光合成によってできた栄養分をもらって元気にすくすく成長しています。ところが、温暖化により水の温度が高くなると、植物たちはサンゴの体内から出て行ってしまいます。植物がいなくなると、サンゴの骨の色は、美しいピンクや緑から、真っ白に変わってしまいます。これを「白化」と言います。温暖化だけでなく、人々の暮らしによって汚れた水が海に溶け込んだ場合も、「白化」が起こります。汚れた水だとお日様の光が珊瑚まで届かないため、植物は光合成ができず、栄養分が取れなくなってしまうからです。さらに、サンゴが弱ってくると、サンゴを食べるオニヒトデがたくさんやって来ます。サンゴが元気な時なら、多少食べられても再生できますが、弱ったサンゴは食べられていく一方です。今年は温暖化の影響か、沖縄の海では白化が進み、美しいサンゴ礁が見られなくなってしまったところも多いと聞いています。
 幸い、サンゴは白化しても完全に死んでしまったわけではありません。もし、奇跡的に水温が下がれば、もとの丈夫なサンゴに戻ることも確認されています。沖縄の恩納村という場所では、台風などで傷ついたり、弱ってしまったサンゴ礁に何とか元気になってもらおうと、養殖場で大切に育て、もとの生息場所に移植するという素晴らしい活動をしています。

●魚の乱獲でクラゲが大量発生
 最近、越前クラゲがニュースによく登場します。特に日本海側では、漁師さんの網にクラゲがたくさん掛かり大変なことになっているそうです。越前クラゲは大変大きなクラゲで、傘の直径だけでも1mを超える大きさに成長します。重さも100kgをはるかに超える巨大なクラゲですから、1匹や2匹ならまだしも、10匹、100匹と数えきれないほどになると網を上げることができません。その上クラゲには毒があるので、一緒に網に掛かった魚はみんな弱ってしまいます。なぜ越前クラゲがこれほど増えてしまったのでしょうか。
 クラゲは海の中を漂って暮らしています。クラゲも魚と同じようにプランクトンを食べて生きているので、漁で魚が捕獲され数が少なくなれば、それはもう大喜びです。プランクトンを独り占めし、たらふく食べてどんどん仲間を増やすことができるからです。また、クラゲの赤ちゃんは、魚に食べられることで安定した量を保っていますが、魚が減って天敵がいなくれば、みんな育つようになってしまいます。要するに、魚の獲り過ぎによって生態系のバランスが崩れ、その結果クラゲが大量発生することになってしまったのです。
 実は、海の中ではクラゲが増えたことを喜ぶ魚もいます。越前クラゲを食料とする馬面ハギというカワハギの仲間や、大きい魚から身を守るためにクラゲの毒のある腕の周りで暮らす、エボダイや真アジの子どもたちにとっては大歓迎です。しかし、漁師さんにとっては大変な事態ですね。
 このように、温暖化や水の汚染、魚の乱獲などによって海のバランスが崩れると、たくさんの生き物や人の暮らしにいろいろな影響を与えてしまうのです。

●海に汚れを出さない努力をしよう
 北の海と南の海にはどんな違いがあるのでしょうか。北の海は、お日様の光を浴びると、昆布やわかめなど、様々な海藻が育ち、海藻が大好物のウニ、サザエ、アワビなどの貝類の他、エビやカニ、たくさんの魚が集まって来ます。海藻が豊かな海には多種多様な生き物が暮らしているのです。一方、南の海には、お日様の光を受けてサンゴが育ち、サンゴの周りにいろいろな生き物が集まって来ます。このように、南の海はサンゴがメインの世界になります。いずれにせよ、お日様の光が届くクリアな水で、一年中水温が安定している海には豊な生態系があります。
 ところが、家や会社、学校など僕たちの暮らしから出た汚れが河から海へと流れ込み水が濁ってしまうと、海藻は枯れて、サンゴ礁は白化し、動物も育たなくなり、最終的には砂漠のような海になってしまいます。今、海の汚れの60〜70%は家庭からの排水だと言われています。海のバランスが崩れ、魚がいなくなるような悲しい事態が起きないように、僕たち一人ひとりが普段から河や海に汚れを出さない生活を心掛けたいものです。
 横浜の山下公園では、「海をつくる会」の皆さんが、毎年1回海底清掃をしていいます。僕もこの活動に何回か参加して海底に潜り、ゴミを拾わせていただきましたが、海底には考えられないようなものも落ちています。自転車の空気入れ、冷蔵庫、車の部品などいろんなものが転がっていて、一日でトラック何台分ものゴミが集められる時もあります。
 水は何でも溶かしてしまいます。陸地からの栄養も溶かしますが、人の作った化学物質も溶かします。悪いものを水に流せば、水の中に暮らす生き物が困るだけでなく、最終的にはその生き物をいただく僕たちに戻ってきます。今年は温暖化の影響でサンゴが弱り、本来は温かい海で捕れるはずのさわらが、東北や北海道あたりでも捕れたそうです。海の変化によって、多くの生き物たちが「海は大変だよ」「自然が大変だよ」と教えてくれているような気がしてなりません。
 豊かな海や自然を守るために、水に汚れを出さない暮らしをしていくと同時に、何をすればいいのか、どうすることがベストなのかを皆さんと一緒に日々、考えていきたいと思います。
 イラストやスライドを交えた講演で、日頃私たちが口にする身近な魚に関する知識から、海の生態系や環境問題まで楽しく学ぶことができました。



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