<だいじょうぶキャンペーン 危機管理学セミナー> 「後悔しない地震防災」
千葉科学大学 危機管理学部 危機管理システム学科 講師 藤本一雄




 12月17日、企業や自治体、大学、地域住民が一体となって、安心・安全なまちづくりに取り組む「だいじょうぶキャンペーン」の一環として、危機管理学セミナーが行われました。第2回目の今回は、千葉科学大学危機管理学部危機管理システム学科講師の藤本一雄氏を招き、地震防災についてお話していただきました。ここでは、その一部をご紹介します。
●高まる首都直下地震発生の脅威
 文部科学省地震調査研究推進本部の予測によると、宮城県沖地震、東海地震、東南海地震、南海地震など、M(マグニチュード)8 級の大規模な地震が、今後30年以内に非常に高い確率で起こるとされています。たとえば、東海地震は、過去の資料から100年〜150年間隔で発生していることが分かっていますが、前回の安政東海地震からすでに150年が経っていることや、最近の観測結果から、いつ起きてもおかしくない状況にあると言われています。また、何より懸念されているのが首都直下地震で、30年以内に70%の確率で起きると予測されています。
 首都直下地震といえば、1923年の関東地震(関東大震災)をイメージする方が多いと思いますが、実は政府が心配しているのは、200〜400年間隔で起こるこのような大規模な地震ではなく、その間にたびたび発生しているM7クラスの地震です。関東地震や東海地震に比べて規模は小さいものの、都市機能や人口の集中した首都の真下で起これば、とてつもなく大きな被害を及ぼすことになります。中でも、発生する確率が高く、もっとも厳しい被害が出ると予測されているのが、東京湾北部を震源とした首都直下地震です。国の防災の中枢機関である「中央防災会議」の想定では、建物の全倒壊数は火災で全焼するケースも含めると約85万棟、死者数は1万1千人、経済被害は112兆円にのぼるとされています。

●膨大な被害を想定した対策を推進
 首都直下地震が起きた場合、震度6弱の揺れが、東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城の一部など広範囲に及ぶと想定され、個々の自治体だけではとても対応できません。そのため、国レベルで対策を検討することが必要です。
 現在、中央防災会議では、「首都直下地震対策専門調査会」を設置して、首都中枢機能の継続性確保と膨大な被害への対応を2本柱とした取組みが進められています。首都中枢機能の継続性確保としては、主に企業のBCP(事業継続計画)が行われています。これは、企業が被災しても重要事業を中断させず、万が一中断した場合も、できるだけ早い時期に事業を再開させようという対策です。
 一方、膨大な被害への対応としては、公共施設の耐震化率を現在の75%から90%に上げ、建物の倒壊や火災による被害を抑えると同時に、約700万人と想定される避難者対策、約650万人の帰宅困難者対策などを進めています。
 この他、地震調査研究推進本部地震調査委員会では、今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率を地域ごとに示した「地震動予測地図」を公表しています。自分の住んでいる地域にどの程度危険があるのか知りたい方は、これを参考にするといいでしょう。

●日頃の防災意識がリスクを減らす
 ところで、自分が住んでいる地域が、今後30年以内に震度6弱以上の揺れに襲われる確率が30%と聞くと、皆さんはどのように感じるでしょうか?
 調査の結果、約4割の人は、「あまり危険でないと思う」と答えています。一方で、「割に危険だと思う」と言う人もいれば、「非常に危険だ」と答えた人もいます。確率は計算で出てくるものですから、誰にとっても変わりませんが、防災対策を考える上では、示された数値をどう受け取るかが非常に重要です。30%という確率が高いか低いかを判断するのは難しいところですが、発生頻度が低くても、いったん起きれば大きな被害をもたらすのが地震です。少しでもリスクを減らすためには、たとえ発生の確率が低くても、日頃から対策を考えておくことが重要です。
 全国の10代以上の男女1000名を対象に、「どのような防災対策が大切だと思うか」というアンケート調査を行った結果では、約9割の方が、「耐震性の高い家に住むことが必要だ」と答えています。また、「家族との連絡方法を決めておく」「家具を固定しておく」「携帯ラジオを準備しておく」といった回答も多く見られました。ところが、実際にどのような対策をしているかについては、「懐中電灯や携帯ラジオ、飲料水や食料を準備している」という答えがもっとも多く、耐震対策や家具の固定などはほとんど行われていないことが分かりました。避難生活をできるだけ快適に過ごすための備えはしていても、命や財産を守るための対策は十分になされていないのが現状なのです。

●わが家の弱点を知った上で必要な対策を
 阪神淡路大震災では、建物の倒壊や家具の転倒によって亡くなった方が、8割以上を占めています。こうした事実からも、建物や家具の倒壊を防ぐことが非常に大事だということが分かると思います。にもかかわらず、多くの人が耐震補強を行わない大きな理由のひとつは、多額の費用がかかる点です。現在、多くの自治体では耐震診断や耐震改修工事費用の一部を助成する制度が設けられています。助成額等は各自治体によって異なりますが、たとえば、港区の場合、耐震診断は無料で受けられる他、改修工事費用の2分の1が助成されます。耐震性の高い建物に住むことが地震防災に効果的であることは、実験によっても証明されていますから、こうした助成制度を積極的に利用して、耐震診断を行ったり、必要に応じて耐震補強することをお勧めします。
 一方、家具の固定については、「面倒くさい」という理由でやらない人が多く見られますが、震度6強〜7の揺れに襲われた場合、倒れた家具の下敷きになってケガをしたり、避難経路が塞がれて逃げ遅れたりする危険性があります。特に、大きな家具のそばで寝ている人は、大きな揺れが来た時のことを想定して配置を替えたり、固定しておくことが必要です。金具などによる家具の固定が面倒という方は、天井と家具の間に中身の詰まった段ボール箱を置いてすき間を埋めるだけでも、リスクを減らすことができます。また、家具を倒れにくくするため、タンスに物を入れる際は、重い物を下に入れ、軽い物を上にするといった工夫も大切です。
 残念ながら、現在の科学では、地震の発生を食い止めることはできません。「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という孫子の言葉のように、まずは地震の脅威に対し、わが家にはどのような弱点があるのかを知っておくことが重要です。起こりうる地震の被害を見極めて、必要な対策を行っていけば、リスクは確実に減らすことができます。こうしておけば良かったと後悔しないためにも、日頃から防災意識を高め、地震に備えていただきたいと思います。



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