「だいじょうぶキャンペーン」危機管理学セミナー
「土砂災害〜土の中を探る〜」
千葉科学大学 危機管理学部 動物・環境システム学科 地下まゆみ講師




 11月10日、企業や自治体、大学、地域住民が一体となって、安心・安全なまちづくりに取組む「だいじょうぶキャンペーン」の一環として、危機管理学セミナーが行われました。
 第3回目の今回は、千葉科学大学危機管理学部講師の地下まゆみ氏を招き、「土砂災害〜土の中を探る〜」をテーマにご講演いただきました。ここでは、その一部をご紹介します。
●土砂災害の危険箇所を知っておこう
 土砂災害は、自然災害の一つで、「がけ崩れ(急傾斜地の崩壊)」「地すべり」「土石流」の3種類に分けられています。
 がけ崩れは、瞬時に斜面が崩れ落ちる現象で、1時間に20mm以上の雨が降ると、発生する危険性が高くなります。突発的でスピードが速いので、逃げ遅れて亡くなるケースも多く見られます。国では、傾斜度30度以上、高さ5m以上の急傾斜地で、特に人家や公共施設に被害を及ばす恐れのある場所を「急傾斜地崩壊危険箇所」として指定していますが、それ以外の場所であっても、勾配の急な場所や水の集まりやすい斜面では注意が必要です。
 地すべりは、地中の滑りやすい層の地盤が、地下水の影響などを受けてゆっくりと動き出す現象です。がけ崩れが急傾斜地で発生するのに対し、地すべりは、棚田地帯のように比較的緩い傾斜地でも起こります。また、地すべりは、一度に広い範囲が動くので、ひとたび発生すると大きな被害になるのが特長です。
 最後に土石流ですが、これは、長雨や集中豪雨などが引き金となって山の斜面でがけ崩れが発生し、渓流に溜まった土砂が濁流となって一気に下流に押し流される現象です。土石流は、「山つなみ」とも称されるように、時速20〜40kmという車並みのスピードと強い破壊力があるため、大きな被害をもたらします。ちなみに、勾配が3度以上の渓流は、「土石流危険渓流」として指定されています。
 よく「天災は忘れた頃にやって来る」と言いますが、過去に土砂災害が起こった場所では、何十年か後に必ずまた発生する危険性があります。災害から身を守るために、まずは、今ご自分の住んでいる地域に危険な箇所がないかどうか、ハザードマップなどで確認しておくことが大切です。

●気象条件や地震が引き金になる
 ところで、日本では、年に一度は大きな土砂災害が発生しています。奄美大島で豪雨による大災害が起きたのも記憶に新しいところです。なぜ日本では、土砂災害がこれほど多いのでしょうか。
 原因の1つは気象条件です。台風による大雨や集中豪雨、梅雨の長雨など、日本は年間を通して雨が非常に多い国です。特に台風の通り道となる九州、四国、近畿では降水量が多いため、土砂災害が起こりやすいのです。実際、土砂災害の発生件数を月別に調べてみると、ちょうど雨量が多くなる5月〜10月の間がもっとも危険だということがわかります。ちなみに、雨の量が1時間に20mm以上の場合はがけ崩れが、50mm以上では土石流が発生しやすくなります。奄美大島でも100mmを超える猛烈な雨が降り続いた結果、土砂災害が起きてしまったわけです。参考までに、雨量によって実際にどのような降り方をするのか、ぜひ覚えておいていただきたいと思います。
 1時間に10mm以上は「ザーザー」という感じで、「今日はちょっと強いかな」というくらいの雨です。20mm以上は、いわゆる「どしゃ降り」で、外出するのが嫌になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。30mm以上は、「バケツをひっくり返したような雨」と言われる状態で、傘をさしていても意味がありません。50mm以上になると、「ゴーゴー」という滝のような音が聞こえ、土石流がいつ発生してもおかしくない状態です。80mm以上は、圧迫感や恐怖を感じる猛烈な雨です。
 雨以外に、地震による揺れも土砂災害の引き金になります。日本は、地震や火山活動が盛んな4つの太平洋プレートの上にあるため、海溝型と呼ばれる地震が発生しやすく、それに伴って土砂災害の危険性も高くなるのです。実際、平成19年に発生した新潟県中越沖地震では、山越村で大規模な地すべりが起きました。

●地質や地形も原因となる
 雨や地震などの外的要因の他に、地形や地質なども土砂災害の大きな原因となります。日本は、山が急峻で険しい地形に加えて、地質構造も非常に複雑です。
 地質構造というと、底の部分に堅い岩石があり、地表にいくに従って柔らかい土になるとイメージされる方が多いようですが、それほど単純ではありません。中には一番下が柔らかい土で、その上に固い岩石が乗っている場所もあります。たとえば、1メートル掘って固いから大丈夫だろうと思って家を建てたら、その少し下は砂だったというケースもあるのです。
 また、粘土鉱物が含まれている場所も土砂災害を引き起こす危険性が非常に高いと言えます。粘土鉱物とは、岩石の構成物質の一種ですが、実は、身近なところで使われています。たとえば、焼き物、磁気、陶器などに使われていますし、化粧品や歯磨き粉、薬の中にも入っています。私も今日ファンデーションを付けていますが、伸びがいいのは、この粘土鉱物が入っているおかげです。ところが粘土鉱物は、砂の中にあると悪さをするのです。実際に土砂災害地では、「スメクタイト」と「ハロイサイト」という2つの粘土鉱物が認められています。スメクタイトは、水を含むと膨張する性質があります。水を含んだ地盤は、浮力で軽くなるため崩壊しやすくなるのです。さらに、粘土鉱物だけが集まった粘土細脈と呼ばれる地質を多く抱えた斜面でも、土砂災害が発生しやすいことがわかっています。
 日本には、こうした粘土鉱物を多く含む軟弱な地質の場所が非常に多いため、土砂災害が起 こりやすいと考えられます。

●予兆を知って災害に備えよう
 今年9月30日現在のデータによると、土砂災害警戒区域の指定箇所は、全国で188,000カ所にも上ります。土砂災害では、特徴的な予兆が見られるので、長雨や集中豪雨、地震などの際に次のような現象が見られたら、ぜひ早めに避難してください。
 崖から水が吹き出す。崖からの水が濁る。崖に亀裂が入る。小石がパラパラと落ちてくる音がする。崖から変な音が聞こえる。これらの場合は、がけ崩れが発生する恐れがあります。
 また、道路や地面にひび割れが生じる。段差ができる。川や井戸の水が濁る。斜面や地面から水が吹き出す。建物や電柱、樹木が傾いてきた。井戸や池の水かさが急に変わった。これらの場合は、地すべりの危険があるので注意してください。
 立ち木の裂けるような音、石のぶつかり合うような音が聞こえた場合は、土石流に注意しましょう。土石流のスピードは、時速20 〜40kmですから、起きてから避難しても間に合いません。特に、雨が降り続いているのに、川の水位が下がった時は早く避難してください。このような現象が見られる時は、上流で崩れた土砂で谷の水がせき止められている状態です。せき止めが壊れれば、一気に流れ落ちてくるので大変危険です。この他、川の水が急に濁ったり、流木が流れて来る、泥臭いにおいがする時も注意が必要です。
 日本では、土砂災害が起こりやすいということを認識し、日頃から家族で話し合って、避難場所や避難経路を決めておくことが大切です。また、万が一の時に備え、近所の人と協力し、助け合える体制を作っていただきたいと思います。



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