「だいじょうぶキャンペーン」危機管理学セミナー 
「首都圏で発生する大地震に備える」
千葉科学大学 危機管理学部 危機管理システム学科准教授 藤本 一雄




 12月6日、企業や自治体、大学、地域住民が一体となって、安心・安全なまちづくりに取組む「だいじょうぶキャンペーン」の一環として、危機管理学セミナーが行われました。
 第5回目の今回は、東日本大震災以降、地震対策への関心が高まっていることから、千葉科学大学危機管理学部の藤本一雄准教授を講師に迎え、第3回セミナーと同じ「首都圏で発生する大地震に備える」をテーマに再度ご講演いただきました。ここでは、その一部をご紹介します。

●最悪のケースを想定して今から事前対策を
 3月11日の東日本大震災では、東北地方だけでなく、千葉や茨城を中心とした関東一円も大きな被害に見舞われました。実は、私が勤務する千葉科学大学も銚子市の海沿いにあり、津波によってキャンパスの大部分が浸水被害に遭いました。銚子市では、東北に比べて津波の規模が小さかったこともあり、人的被害はなく、建物が流されることもありませんでしたが、隣の旭市では死者、行方不明者、併せて15名が犠牲となっています。私も当時大学内にいたため、他の教職員や学生150人ほどと一緒に近くの学校に避難して一夜を過ごしました。幸い、全員無事に避難することができましたが、もしあの日、一人でも学生が亡くなるような事態が起きていたら、私はとても今日ここでお話できるような心境にはなれなかったでしょう。「命が助かる」ということが、いかに重く、大事であるかをこれほど痛感させられたことはありませんでした。
 地震への危機意識が高まる中、今最も懸念されているのが、首都直下型地震です。首都直下地震は、関東のどこか真下を震源として起こるM7クラスの地震で、今後30年以内に70%の確率で起きると言われています。首都直下地震の場合、今回のような津波の危険性はそれほど高くありません。しかし、多くの物や人が集中する東京のような都市で大規模な地震が発生すれば、住宅密集地での火災や建物の倒壊、交通、通信網の遮断などにより、今回の震災以上に甚大な被害が生じることも予測されています。
 いつ起きてもおかしくないと言われる首都直下地震から命を守り、少しでも被害を少なくするためには、地震の規模や発生状況などを含めて最悪のケースを想定し、今から予防的な対策を行っておくことが非常に重要です。

●助けられる側ではなく、助ける側になる努力を
 具体的な対策としては、①「できる対策」ではなく「するべき対策」を行う。②自分の身は自分で守る。③様々な状況を想定しておく。④「正しい行動」ではなく「協力的な行動」をとる。⑤自分の行動を信じすぎない。⑥対策を定期的に見直す、という6つのポイントがあげられます。
 中でも「自分の身は自分で守る」=「自助」の意識を持つことは非常に大切です。行政や警察・消防などの公的な防災機関は、災害時への対応として地域防災計画などを立てており、それに基づいて行動する必要があります。しかし、災害直後の混乱した状況の中では、マニュアル通り、即座に全員を救出に行くことはほぼ不可能といってもいいでしょう。実際、阪神淡路大震災では、倒壊した建物などのがれきの中に閉じ込められた多くの人が、自力で脱出するか、家族や隣人、通行人などによって救助されたことがわかっています。誰かが助けに来てくれるのを待っているだけでは、自分の命を守ることはできません。「助けてもらう側」の人間(災害時要援護者)ではなく、「助ける側」の人間として、いざっという時に適切な行動がとれるように一人ひとりが「自助」を心がけていただきたいと思います。
 ところで、東日本大震災では、特別養護老人ホームなどの施設に入所する高齢者の多くが避難できないまま津波の犠牲となり、さらにはお年寄りを助けようとした若い世代の職員も命を失いました。日本では、年々少子高齢化が進んでいます。今後は、増え続ける高齢者の身をどう守るか、また自分が高齢になった時、要援護者にならないためにはどうすればいいのかを考えておかなくてはなりません。たとえば、家を耐震化したり、家具を固定して転倒防止をするなど危険を防ぐ対策は不可欠です。また、軟弱地盤の場所や沿岸部を避けて住むといったことも視野に入れておく必要があるでしょう。要は、危険が迫った時にすぐに避難できなくても、ある程度、身の安全を確保できるような工夫や人生設計をしておくことが大切なのです。

●正しい行動より、協力的な行動を
 東京のような大都市で起こる地震では、「正しい行動より、協力的な行動」をとることも重要です。一人ひとりが自分にとって正しいと思う行動をとることは、通常であれば何も問題はありません。しかし、災害時にはそれが悪い結果を招くことが多いのです。たとえば、安否確認です。「心配だから電話をする」というのは、家族単位で見れば当然の行動です。しかし、多くの人が一斉に電話をすれば、ネットワークがパンクしてつながりにくくなり、警察や消防への緊急通報もできなくなってしまいます。安否確認どころか、助けられる命が助けられなくなることは大きな問題です。また、自宅から離れた場所に通勤・通学をしている人が帰宅を急ぐことで、帰宅困難者の問題を招くこともあります。家族が心配で一刻も早く帰ろうとする気持ちはわかりますが、非常に多くの人が駅周辺や幹線道路に集中し溢れ出すと、救急車両の通行の妨げになり、結果的に救急活動、消火活動に支障をきたすようになってしまいます。
 今回の東日本大震災や台風15号の際にも、数百万人の帰宅困難者が出ましたが、首都直下地震となれば、東京都だけでも390万人という大量の帰宅困難者が発生すると予測されています。しかも、負傷者は、十数万人から20万人にのぼるとされ、救助活動が円滑にできなければ、非常に混乱した状況に陥るでしょう。
 安否確認には、災害伝言ダイヤルなどを利用し、地震発生直後は、帰宅を急いだり、むやみに移動したりせず、職場や学校に留まって、できればその地域の救助活動に当たるよう努めることが重要です。
 災害は待ってはくれません。自分の身の回りにどのようなリスクが存在するのかを検証し、自分や家族の命を守るために、最優先にすべき対策は何なのかをよく考えて、今すぐ行動に移していただきたいと思います。




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