危機管理学セミナー 「食の安全性はどのように確保されているのか」
千葉科学大学 危機管理学部 動物危機管理学科教授 堀本政夫




 11月22日、企業や自治体、大学、地域住民が一体となって、安心・安全なまちづくりに取組む「だいじょうぶキャンペーン」の一環として、危機管理学セミナーが行われました。
 第3回目の今回は、千葉科学大学危機管理学部教授の堀本政夫氏を招き、「食の安全性はどのように確保されているのか」をテーマにご講演いただきました。ここでは、その一部をご紹介します。
●食品に「ゼロリスク」はない
 食品の安全性については、「白黒二分法」と「リスク分析」の2つの考え方があります。「白黒二分法」は、100%安全な食品を供給し、少しでも危険な食品は禁止すべきという考え方、一方「リスク分析」は、100%安全な食品などないのだから、できるだけ危険を減らした食品を供給しようという考え方です。では、一般消費者は、どちらの考え方を指示するのでしょうか。
 津波による原発事故後、周辺地域の農作物から放射能が検出された時、「直ちに健康に影響はない」とされたにもかかわらず、多くの人が福島産などの野菜を買い控えました。このケースからわかるように、理屈で「心配ない」とわかっていても、やはり100%安全な食品を供給してほしいと考えるのが消費者の心理なのです。
 しかし、食品に「ゼロリスク」はありません。私たちは、とかく食品添加物や農薬といった人工的な化学物質による健康への影響を心配しますが、そもそも、食品自体には自然毒もあれば、アレルギーを引き起こす成分も含まれています。したがって、「少しでも危険な食品は禁止すべき」という考え方が、いかに非現実的であるかがわかるでしょう。  
 食品の安全性を考える上で、「ゼロリスクはあり得ない」という考え方は、今や国際的な常識です。そして、日本でも、リスクを前提にそれを科学的に評価し、できる限り小さくしようという「リスク分析」の手法により、食品の安全性が確保されているのです。

●「リスク評価」は安全性確保の第一歩
 リスク分析には、「リスク評価」「リスク管理」「リスクコミュニケーション」の3つの要素があります。中でも、リスクへの適切な対応の第一歩として重要なのが、科学的なリスク評価です。
 現在、食品のリスク評価は、内閣府に設置された「食品安全委員会」によって行われています。
 食品安全委員会には、食品添加物や農薬をはじめ、動物用医薬品、化学物質、汚染物質、微生物、ウイルスなど11の専門調査会が設けられており、厚労省や農水省など各省庁からの要請を受けて、ひとつひとつの危害物質が健康に及ぼす影響について細かく評価しています。そして最終的に、その物質を人が一生涯毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される「一日摂取許容量」を決定します。
 具体的には、動物実験を行って、その物質を大量に摂取した時の毒性や毎日長期間摂取した場合の影響、妊娠時に摂取した時の子供への影響、発がん性を起こす可能性などを調べ、許容量を算出します。ただし、動物による毒性試験のデータをそのまま人に当てはめるわけではありません。動物と人との代謝やメカニズムの違い、個人差などを考慮し、動物実験でもっとも安全と推定された量の100分の1を人の安全値として、一日摂取許容量を決定しています。
 さらに、農薬の場合は、残留農薬基準値も設定します。これは農作物の中で、食品中に残留することが許される農薬の最大量です。残留農薬の基準値については、一生涯食べ続けても安全と推定される摂取量の80%未満の数値に設定されています。
 このようにリスク評価では、実際よりも大幅に低い基準値を設定することで、リスクをより小さくし、安全を担保しているのです。

●「リスクコミュニケーション」こそ安心の要
 ところで、いくら科学的なリスク評価をして安全性が担保されても、消費者にそれがきちんと伝わり、理解されなければ意味がありません。リスク分析の最終的な目標は、消費者の不安を取り除き、安心を確保することです。そのためには、生産者や消費者、行政、研究者など関係者全員が、「リスクコミュニケーション」によって情報を共有し、意見交換しながら、互いの信頼関係を築き、安全に対する理解を深めることが肝心です。
 最近は、住民や消費者の食品の安全性への不安を少しでも解消しようと、食品安全委員会が食品添加物や食品の放射線について学ぶワークショップや意見交換会を全国各地で開いています。私たち消費者もこうした意見交換会やセミナーなどには積極的に参加し、情報を得たり、疑問をぶつけたりして、自分自身で安心感を醸成していくことが大事です。
 さらには、食品の安全について正しい知識と理解を深めるために、今すぐできることから始めていただきたいと思います。
 まずは、食品の安全に関する情報を入手しましょう。情報は、新聞、テレビ、ラジオ、インターネットをはじめ、関係機関の発表や学術書、専門誌、専門家の著作物など、様々な方法で入手することができます。ただし、1つの情報を鵜呑みにせず、複数の情報を比較し、その情報が信頼できるものかどうかを評価することが大事です。次に、得られた情報が自分の置かれている環境にも適応するかどうかを考え、冷静に判断しましょう。そして何より大事なのは、自分の判断に基づいて行動することです。情報が包み隠さず提供される現代社会では、得られた情報をいかに判断するか難しい選択が求められますが、周囲の人や風評に流されることなく、常に自分自身で考え、行動することを心がけてほしいと思います。



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