危機管理学セミナー 「ネット生活の危機管理 — モラルとリテラシ ー」
千葉科学大学 危機管理学部 船倉武夫




 11月6日、企業や自治体、大学、地域住民が一体となって、安心・安全なまちづくりに取り組む「だいじょうぶキャンペーン」の一環として、危機管理学セミナーが行われました。
 今回は特別開催セミナーとして、千葉科学大学危機管理学部の船倉武夫教授を迎え、「ネット生活の危機管理 — モラルとリテラシー」をテーマにご講演いただきました。ここでは、その一部をご紹介します。
●便利さの中に潜む危険性を知ろう
 現代社会はネット無しには仕事も生活も送れない社会です。事実、「ネットばかりして!」と注意する教師も親も、「ネット依存症ってなんだろう」とネット検索するような時代です。
 たしかに、ネットはとても便利なものに違いありません。仕事のデータ入力や文書作成、写真や動画撮影をはじめ、かつてはカーナビがなければわからなかった地理情報も、GPSによって誰もが簡単に得られるようになりました。家にいながらにして情報を集めたり、ショッピングをしたり、音楽や読書、ゲームなど様々なコンテンツを楽しむこともできます。しかし、その便利さの中には、非常に大きな危険性が潜んでいるのです。
 中でも今最も話題になっているのが、「LINE(ライン)」と呼ばれる無料通話・メールアプリです。LINEは、スタンプや絵文字を使い短文でメッセージを伝えられるのが特徴で、料金がかからず、しかも送ったメールを相手が読んだかどうかが、すぐにわかるといった魅力もあり、中高生などの若い世代を中心に急速に普及しています。しかし、利用者が増えるに従って、LINE上で友達の悪口を書き込んだり、金銭を恐喝したり、見られたくない写真や動画を広めるといったいじめやトラブルが多発しています。また、LINEを利用するための登録システムによって、個人情報が流出し、詐欺やストーカー被害などに巻き込まれるケースも少なくありません。もちろん、こうした問題があるのはLINEだけに限りません。ツイッターやフェイスブックなどのいわゆるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でも同様に、様々なトラブルが起こっています。
 ネット社会という情報の海でのサーフィンを楽しむには、いい波を見つければいいのですが、海を侮ると、溺れる危険性が常にあるということを忘れてはなりません。

●爆発的に拡大するスマホ利用者
 ネットをめぐるトラブル増加の背景には、スマートフォン(スマホ)の利用者の爆発的な拡大があります。スマホは、従来の携帯電話とは異なり、電話やメールだけでなく、サイトの閲覧やオンラインゲーム、写真や動画の活用など、多様な機能を備えています。従来パソコンを接続しなければできなかったことが、スマホの登場によって気軽に実現できるようになった分、トラブルに巻き込まれる危険性もさらに大きくなっていると言えるでしょう。
 たとえば、スマホのカメラで撮った写真には、GPSの地理情報で北緯何度何分何秒まで入ってしまうので、写真共有サービスなどで公開すれば、第三者に微細な場所が特定されてしまいます。自宅や家族の写真をネット上に出すことは、実は危険きわまりない行為なのです。他にも、ネットショッピングをめぐる金銭トラブルや、出会い系サイトに関連した性犯罪に巻き込まれるケースも増えています。
 最近では、岐阜県の会社が、私用の携帯電話としてスマホを使わなければ、毎月5000円の「デジタルフリー奨励金」を支給すると決めたという報道もありました。この会社では、社員がこぞってスマホを使い始め、休憩時間になると皆スマホに夢中になってしまい、社員同士で歓談することがなくなってしまったそうです。社長は、「アナログのコミュニケーションの大切さを考えるきっかけにしたい」と脱スマホの苦肉の策を打ち出したわけです。このケースも、今やネットが私たちの生活と切り離せないものとなっていることの象徴だと思います。


●ネットに関する知識を持って安全を確保しよう
 ネット社会が広がる中で、もうひとつ急激に増えてきているのが「ネット依存」です。オンラインゲームやSNSにのめり込み、仕事や学業に支障をきたすだけでなく、健康を害し死にいたるケースもあります。インターネット先進国と言われる韓国やアメリカでは、すでに大きな社会問題となっており、国自体が対策に乗り出し、医療機関でのスクリーニングテストや治療が行われています。日本でも2011年、神奈川県の「久里浜医療センター」にネット依存の治療部門が開設され、ようやく治療が始まりました。
 ここまで見てきたように、多くの問題があるにもかかわらず、ネットの世界では、車の運転免許や任意保険のように危険から身を守る仕組みが、まだ十分に確立されていません。その一方で、多くの人はネットについてよくわからないまま、便利だから、役に立つからと、スマホやPCを安易に使ったり、与えたりしてしまうのが現状です。特に子供は、スマホを持ったその日から使いこなし、あっという間に親よりも詳しくなってしまいます。そして最新のゲームやネット上のサービスなどに没頭するなど、思いもよらない使い方に進んでしまうのです。
 ネット生活の危険を回避するためには、ネットの仕組みやスマホについて正しい知識を持つことが非常に大切です。ネットやスマホの有用な面は何か、マイナス面は何か。ネットによって得るものと失うものを知った上で、使うこと、与えることが、最大の危機管理だということを覚えておいていただきたいと思います。
 また、具体的な安全対策として、ぜひ次のことを実行してほしいと思います。
 ・GPS機能はオフにして、必要なときだけオンにする
 ・SNSのような個人情報は、正確に書かない
 ・実際に会った人だけをSNSの友達にする
 ・「セキュリティは安全」を信用しない
 ・ネット上で占いや診断、アンケートはしない
 ・固定電話や住所のないサイトは、読む価値はないので捨てる
 ・個人情報を求め過ぎるサイトは離れる
 ・個人情報を書くときは、性別や年令など、適当にうそをつく
 ・自宅や家族の情報や写真等はネット上に出さない

 ネット社会が広がり続ける今、自分もインターネットの事件の当事者となり得るというイメージを常に持っていてください。取り返しのつかない事態を避けるために、まずは敵を知り、失敗に学びましょう。そして、「インターネットなんかやってないで、どこかへ行こうよ!」と、苦言を言ってくれる人を大事にしてほしいと思います。



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