1水戸の大地の成り立ちと地質・地盤災害
千葉科学大学危機管理学部 植木岳雪




 11月6日、企業や自治体、大学、地域住民が一体となって、安心・安全なまちづくりに取り組む「だいじょうぶキャンペーン」の一環として、危機管理学セミナーが行われました。
 第3回目の今回は、千葉科学大学危機管理学部の植木岳雪教授を講師に迎え、「水戸の大地の成り立ちと地質・地盤災害」をテーマにご講演いただきました。ここでは、その一部をご紹介します。
●地形・地質は社会の持続可能性に貢献する
 災害の危機管理では、時間と空間のスケールに応じた対応が必要です。たとえば、地震を例に考えてみましょう。地震発生後、数分から数時間までは、身の安全の確保が第一です。この段階では、主に消防や救急、医療関係の人達が危機管理を担っています。次に、数日から数年にわたっては、電気、ガス、水道などのライフラインや物流といった生活の安定に関わる危機管理が必要となります。いわゆる防災やリスクマネジメント、企業のBCP(事業継続計画)の策定がこれに当たります。
 さらには、数十年以上という長いスパンで、社会の持続的発展という視点から危機管理を考えることも重要です。私達が未来永劫、豊かな生活を続けるためにはどうしたらいいのでしょう。具体的には、様々な施設やプラントをどんな場所に置いて、どう管理するかをはじめ、いざという時、何を考え、どう行動したらいいかといった学校教育、生涯教育など、地域や国家、地球規模での危機管理を考えていくことが必要です。そして、この段階で関わってくるのが、今日のテーマである地形や地質です。地形や地質、地層などは、普段の生活ではあまり人と関わりがないものですが、実は、数十年以上先の持続可能な社会を構築する上で大きく貢献しているのです。
 そこで、実際に水戸の地形や地質がどのようにできているのか、また災害の際に、それがどう影響するのかを見ていきましょう。

●水戸の台地は地質が固く住みやすい
 水戸は、東京から特急で1時間ほどの距離にあり、関東平野の一部に属しています。関東平野をお椀の底とすれば、水戸はちょうどそのお椀の縁のような場所に位置しているとイメージすると分かりやすいかもしれません。
 水戸市内には、那珂川という大きな川が流れ、川沿い一帯に低地が広がる一方、那珂川をはさんで南側と北側には広大な台地が形成されています。水戸の市街地は那珂川の南側に広がる東茨城台地の上にあります。実は、水戸の台地は地質的な面から見ると、地盤が固く、大変いい場所です。台地の地面の下の方には、固い石があるため、災害に対して安全性が高いと言えるからです。たとえば地震が起きたとしても、よほど大きな震度でなければ、建物が倒壊するような揺れには至らないでしょう。また、隆起した土地なので、津波の危険性も低いと言えます。実際、東日本大震災では、水戸も震度6弱の揺れに襲われましたが、亡くなった方はほとんどなく、津波で建物が倒壊することもありませんでした。建物や道路などの損壊はありましたが、多くの死者が出た北茨城や千葉県旭市などに比べると、比較的被害が小さかった地域と言えると思います。
 ただし、同じ水戸でも、那珂川沿いに広がる低地の地質は良くありません。表面上は平らに見えますが、低地の下は、深い谷となっていて、そこには集積層と呼ばれる軟弱な地層が埋まっています。こうした柔らかい地層の場所では、地震が来れば、台地よりも圧倒的に揺れが大きくなるでしょう。また、水をかなり多く含んだ地層であるため、地震の揺れによって液状化が起こり、家が傾く、地面が波打つ、ガス管が壊れるといった被害につながる危険性が高まります。このように、地形や地質の違いによって、起きる災害や被害の程度は、全く違ってくるのです。

●水戸の地面の成り立ちには地球全体が関わっている
 台地は、地質学的には段丘と言います。段丘には、海が作る海成段丘と川が作る河成段丘がありますが、水戸の台地のほとんどは海成段丘です。では、海成段丘は、どのようにしてできるのでしょうか。
 海沿いに崖があると、海面が高い時期に波が当たって少しずつ削られ、海中に平らな地形を作っていきます。地球全体が寒くなると、海の水はどんどん減って干上がります。その時期に、地殻変動などによって地面が隆起すると、地球が再び暖かくなって海の水が増えてきた時、隆起した部分が水没せず段丘となるのです。約45万年前から、地球は1000年単位で寒い時代と暖かい時代を繰り返し、それに伴って海の水も高低を繰り返し、現在の水戸の台地が形成されてきました。つまり、水戸の台地は、水戸だけで勝手にできたわけではないのです。地球全体の気候変動と海面の変化、日本列島全体の地面の隆起という3つの要素の組み合わせにより成り立っているのです。水戸の地形や地質の特性を知ることは、実は日本全体、そして世界全体の自然の動きを知ることにつながるのだということをぜひ知っておいてください。
 もう一つ大事なことは、地面の隆起が地震によってもたらされるという点です。自分が生きている今現在は、地震など起きない方がありがたいわけですが、地震が全く起きなければ地面は隆起せず段丘はできません。地面は徐々に海に浸食され、私達の遠い子孫は住む場所がなくなってしまうでしょう。地球規模の大きな視点で見れば、地震もまた必要なものだということを理解しておいていただきたいと思います。

●過去を知って未来に備えよう
 とはいえ、地震などの災害の際、自分が住んでいる地域が安全な場所かどうか、どの程度危険なのかについては、気になるところでしょう。それを知るには、二つの方法があります。
 一つは、古い地図を調べることです。地図は明治時代から作られています。明治時代には、今ほどたくさんの家や工場はなく、地図にも昔の地形がそのまま残されているので、自分の住いが元々どんな場所だったかを確認できます。たとえば、沼地だった場所は、現在は埋め立てられて平らになっていても、当然柔らかい地層ですから、湿気があって住みにくく、地震が来れば揺れが大きいといったことが予測できます。
 もう一つは、空中写真で判断する方法です。空中写真を立体的に見ると、来るべき地震の際、日本全国のどの場所が崩れやすいか、どこに家を建てると危ないかなどが分かります。空中写真は、国土地理院のホームページに掲載されているので、もし、自分の家の周囲について知りたければ、ダウンロードして確認するといいでしょう。
「現在は過去の鍵である」という言葉がありますが、逆に、過去を調べることによって、現在の状態が分かり、未来を予測することができます。また、「所変われば品変わる」というように、自分の住んでいる場所がどんなところかは、その地域の自然について、実際に調べてみなければ分かりません。ですから、ぜひ足もとの大地に関心を持って調べてみてください。皆さんには、郷土の大地の成り立ちを通して、日本全体、地球全体の自然活動にまで理解を深めてほしいと思います。



CLOSE