概要
令和8年3月25日 千葉科学大学は、令和7年3月25日に授与した博乙第725201号「博士(薬科学)」の学位について、授与者本人からの学位取り下げ申請に基づき、学位の取り消しを決定し、学位記の返還を命じた。
1.取り消し決定日
令和8年3月24日
2.学位取り下げの経緯
令和7年度に山口 宏之氏より「コラーゲンビトリゲル膜と培養細胞を用いた角膜モデルの構築と化学物質の眼刺激性試験および角膜透過性試験への応用に関する研究」と題して学位申請があり、厳正な論文審査等の必要な手続きを経て令和7年3月25日に千葉科学大学は同氏に「博士(薬科学)」の学位を授与した。
しかし、令和7年9月に学位審査の対象となった論文において数値の再現性が取れない旨の指摘を海外の研究者から受け、山口氏の所属する関東化学株式会社および山口氏の学位審査で主査であった本学竹澤俊明教授が山口氏の学位申請に使用した論文の基礎データを詳細に検討した。その結果、論文の根拠となるデータ解析に不正行為があることが明らかとなったため、主論文4報中の1報の撤回が学会誌から認められ、それに続く他の論文も今後撤回が予定されている(別紙)。
以上のことから、山口氏から学位取り下げ申請の申し出があり、学位授与の根拠となる論文がなくなったことから千葉科学大学大学院薬学研究科は同氏の学位取り下げ申請を承認し、学位の取り消しを決定し、学位記の返還を命じた。
博士論文撤回の経緯
OECDテストガイドラインNo.494(以下TG494)に記載されているVitrigel-EIT法(眼刺激性試験法)について、令和7年9月25日にOECDを介して海外研究者より技術的指摘を受けたことを契機に調査を開始した。その結果、このガイドラインの基礎となる山口氏が筆頭の原著論文(1および2)を含む下記の原著論文3報およびTG494において、方法に記載された解析手法とは全く異なる、山口氏独自の解析手法が用いられていたことが発覚した。
さらに、TG494のバリデーション研究に使用された関東化学株式会社製の解析ソフトウェアの内部計算ロジックにも、同氏の独自手法が組み込まれていたことが判明した。本行為は、文部科学省の示す研究活動の不正行為のうちの捏造、改ざんに相当する。これに伴い、当該論文の責任著者である竹澤教授より、論文に掲載された解析結果の再現性が担保できないことを理由に原著論文1および2の撤回申請が行われた。学位授与の要件となる主論文が撤回される事態となったため、山口氏からの学位取り下げ申請に基づき、千葉科学大学大学院薬学研究科は、山口氏の学位授与を取消すことを決定した。
1) Yamaguchi H, Kojima H, Takezawa T*. Toxicological Sciences 135(2): 347‒355, 2013.(*責任著者)
2) Yamaguchi H, Kojima H, Takezawa T*. Journal of Applied Toxicology 36(8): 1025‒1037, 2016.(*責任著者)
3) Kojima H*, Yamaguchi H, Sozu T, Kleinstreuer N, Chae-Hyung L, Chen W, Watanabe M, Fukuda T, Yamashita K, Takezawa T. Alternatives to Laboratory Animals 47(3‒4): 140‒157, 2019.(*責任著者)
4) OECD テストガイドライン No.494(2021年改訂)
不正行為の概要
山口氏は、原著論文等に記載した解析方法とは異なる独自の手法を適用し、さらには自らが所属する関東化学株式会社において開発したソフトウェアの計算ロジック内に不適切な処理やバグを組み込んでいた。同氏はこれらの事実を、指導教員(主査)および共同研究者に一切報告・相談することなく長期間にわたり秘匿し続けた。出力された解析結果の数値は見かけ上正しく見えるものであったことに加え、不適切な処理が企業のソフトウェア内部というブラックボックスで行われていたため、通常の研究指導の範疇においてこれを発見することは物理的に不可能であった。
さらに、この不整合はバリデーション技術導入時(2013年(平成25年)5月)までに関東化学株式会社が自社の解析ソフトウェアを十分に検証していれば、原著論文1が受理された2013年7月以前に発見できたと考えられるが、同社においてその検証が怠られていた。この一連の隠蔽と検証不足が、上記原著論文3報の出版およびTG494の登録に繋がり、結果として本件は個人の博士論文撤回にとどまらず、広範な学術的・社会的影響を及ぼす重大な事態を招くこととなった。





