高校生のための危機管理講座-3「大地震に直面 その時あなたはどうする」
千葉科学大学危機管理学部 危機管理システム学科 酒井明 教授




 皆さんご存知のように、つい最近も新潟で中越沖地震がありました。今日は、実際に大地震に直面した時、どう行動すればいいのか、具体的にいくつかの場面を想定して、分かりやすく説明したいと思います。

<ケース1> エレベーターに乗っている時
 現在、多くのエレベーターには、「地震時官制運転装置」が装備されています。この装置が付いていれば、地震の発生を感知器が捉え、最寄りの階に緊急停止してドアが開くので、エレベーターの中に閉じ込められることはありません。しかし、この装置がない場合は、すべての階のボタンを押すのが、最も有効な方法です。
 地震の際は、最初にP波(プライマリーウェーブ)という早いスピードの揺れが来て、その後、S波(セカンドリーウェーブ)という大きな揺れが来ます。「地震時官制運転装置」には、P波とS波の両方の揺れを感知するものとS波だけを感知するものがありますが、P波を感知する機能を備えていれば、すばやく逃げられるというメリットがあります。まずは、普段利用しているエレベーターに「地震時官制運転装置」が装備されているかどうか確認しておきましょう。装備されている場合は、P波S波の両方を感知できるのか、S波だけなのかを調べておくことも大切です。ただし、たまたま乗ったエレベーターに装備されているかどうかは調べられないので、揺れを感じたら、とにかく各階のボタンを全部押して、止まった階ですぐに外へ出ることです。万が一、閉じ込められた場合には、非常用のインターフォンで通報し、落ち着いて救助を待ちましょう。

<ケース2> 東京ドームで野球観戦をしている時
 スタジアムは、一般に震度7まで耐えられるとされ、非常に耐震性が強いと言えます。実際、阪神淡路大震災の時は、「グリーンスタジアム神戸」も「甲子園球場」もほとんど無傷でした。東京ドームは、「エアー・サポーテッド・ドーム」と言われる設計になっており、震度8まで耐えられるとも言われています。ですから、観戦中に地震が起きても、慌てて出口に殺到しないで、その場所に止まっているのが、最も有効だと思います。

<ケース3> 超高層ビルのレストランで食事をしている時
 現在、超高層ビルの多くは、地震や強風による揺れで窓ガラスが割れないように、カーテンウォール工法という工法を採用しています。非常に新しい工法ですから、ガラスが割れて飛び散るといった被害については、あまり心配ないと思います。ただし、これから来ると予想されている南海地震や東南海地震のようなプレート間地震の場合は、かなり周期の長い揺れとなります。周期の長い揺れは、ビルの揺れと地震の揺れがお互い共鳴し合い大きな揺れとなる「共振」という現象が起こると言われています。この場合も、ガラスが上から落ちてくることは、ほとんどないと言われていますが、強い揺れで窓枠が外れることが考えられます。窓枠が外れると、気圧の関係で内部の空気が、ものすごい勢いで外に向かいますから、窓の外に飛ばされる危険性があることを認識しておきましょう。

<ケース4> 車で首都高を走っている時
 首都高は、震度5の地震が発生すると、全面通行止めになります。地震発生時には、前の車に追突しないように、急ブレーキをかけず、できるだけゆっくりと左側に寄せることが大事です。状況によっては、車を置いて、逃げた方がいいでしょう。その際は、キーをつけたまま、窓を閉め、貴重品を持ち、連絡先を書いた紙を置いておきます。最も怖いのはパニックです。暴走行為が起きたり、火災が起きて瞬く間に火の海になるといった状況も考えられますので、それを防ぐためにも、一人ひとりが冷静になることが求められます。
 一方、交通量が多い一般道路では、震度6でタイヤがパンクしたのと同じような状態になるため、ハンドル操作が難しくなり、あちこちで玉突き事故が発生する可能性があります。また、最悪の場合、道路に亀裂が生じて、そこに転落する可能性もあるので、やはり車を置いて逃げるのが最良の方法だと思います。

<ケース5> 駅で地震に遭った時
 東京八重洲口のように、1日数十万人の乗降客がいるような大きな駅では、群衆がパニックを起こすことが最も懸念されます。1983年に千葉県沖で震度4の地震が発生した時は、3000人が秋葉原駅でパニックに陥り、機動隊が出動したものの、全く制止できませんでした。たとえば、あちこちの駅でパニックが起きた場合、群衆のパニックをどのくらい押さえられるかは、大きな問題だと思います。個人的にできることとしては、ホームにいたら転落を防ぐために、四つん這いになって中央に行き、できるだけ柱などに身を寄せることや、看板の落下などから身を守るために、バッグなどを頭にかぶるといったことが必要です。

<ケース6> オフィスで働いている時
 最新設計の超高層ビルと違い、古いオフィスビルの場合は、ガラスがものすごい勢いで降ってくることが考えられます。かつて、三菱重工ビルの爆破事件では、爆破されたビルから雨のごとく落ちてきたガラスが刺さり、多くの人が死傷しました。これに近いことが、地震時にもあちこちで起こる可能性があります。古いビルが密集しているところは、ガラスが凶器になる可能性があるので、建物の外に出ない方がいいでしょう。とりあえず、窓から離れて、机の下に隠れるというのが、スタンダードな避難法だと思います。倒壊の危険性のあるロッカーや本棚から離れることも必要です。また、家族と連絡をとるために、災害時の伝言ダイヤルの利用方法を覚えておきましょう。
 この他にも、海上や病院、雑居ビルにいた場合や、放射能漏れから身を守る方法など、具体的かつ実践的な地震対策を学ぶことができました。



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