薬学部薬学科
レプトスピラ症は世界各地で発症例が報告される、代表的な人獣共通感染症の一つである。その起因菌であるレプトスピラは、スピロヘータ科に属する微好気もしくは好気的な環境で生育する運動性の環境中に広く存在する細菌である。レプトスピラは長鎖脂肪酸のみをエネルギー源かつ炭素源として利用すると研究者に広く信じられているが、その詳細は明らかになっていない。
一方で運動性の細菌は、環境中の物質濃度の差を敏感に感知し走化性を示す。菌の生育に必要な誘引物質に対しては近づき、その場で留まるが、忌避物質に対しては運動方向を変え、そこから遠ざかることが出来る。レプトスピラも例外ではなく、いくつかの誘引物質に対して走化性を示すことが知られているが、近年、本来レプトスピラが資化出来ないとされてきた糖に対しても走化性を示すことが報告された。
レプトスピラの病原性と運動性は密接に関わっていることが知られており、黄疸発症のメカニズムについても運動性の関与が示唆される。レプトスピラの運動制御機構の解明は、感染症の制圧と細菌の病原性発揮機序を解明するうえで重要である。
我々は、グルコースをはじめとするいくつかの糖に対してレプトスピラの増殖を促進することを示してきた。さらにレプトスピラの走化性発揮機構や糖代謝機構の解明を行ないながら、細菌の形態や代謝、運動性といった生理的機能への視点からの感染制御のアプローチを目指している。