それは、淡水魚と海水魚が共存できる水。
「好適環境水」を利用し、普及を進めています。
私たちの食卓に並ぶ魚は、ほとんどが養殖によって確保されています。しかし、海水温の上昇など地球環境が変化し、生産量への悪影響も拡大しつつあります。そこで、千葉科学大学では、自然に左右されない養殖を実現するため「水」に着目。本学の母体となる加計学園が開発した魚を育てるための人工的な飼育水「好適環境水」を利用したフィッシュ・ファクトリー(魚類生産工場)のシステム開発を促進することにしました。最大の特徴は、浸透調整を可能にする機能をもつこと。つまり、淡水魚も海水魚も同じ水槽の中で飼育できるのです。養殖魚にさまざまなメリットをもたらすこの水で、私たちは次世代型水産技術イノベーションに取り組んでいきます。ご注目ください。
千葉科学大学の
「次世代水産技術イノベーション構想」
水産業が盛んな銚子市をモデルケースとして、
地域社会・研究・教育の活性化に貢献していきます。
人類が魚類の養殖を始めておよそ3000年が経過しました。3000年が経過した現在でも自然の一部を利用し養殖を行っています。現在の養殖では自然の影響(台風や海水温の上昇など)により生産量が不安定です。人工的な養殖へと移行することにより、人類が抱える問題(人口増加=食糧危機)に備えることが可能となります。また、生産量を自然に左右されない養殖へと移行していく必要があります。
次世代型陸上養殖施設
好適環境水で魚を飼育すると魚の病気が発生しにくいことが知られていますが、そのメカニズムはわかっていません。そこで好適環境水と魚の免疫機能との関係について研究を進めています。これまで魚類の免疫のしくみについては、解明されていないことが多く、基礎的なレベルから研究に取り組みはじめました。
私たちはこれまでにコイに異物(抗原)を投与した時に作られる血液中の特異的抗体(抗原に特異的に結合して、その異物を生体内から除去する分子)の生成量の測定ができるようになりました。今後、好適環境水飼育が魚の抗体生成にどのような影響があるかを明らかにしていきます。
好適環境水飼育により魚の生体防御能を向上させることができれば、より安心安全な養殖につながります。
コイからの採取血液中の抗体量を測るには採血する必要があります。人と違って魚は丈夫な鱗、皮膚に覆われているため血管の位置を目で確認することができません。血管のある場所は体の部位ごとに、ある程度決まっているので(魚の血管は背骨と並行に走ってる)魚に与えるダメージを極力減らしつつ尻尾の付け根辺りから針を入れてこれを狙い素早く少量採血します。
「細菌」で連想するのは病気を引き起こす病原細菌かもしれません。しかし、細菌の利用は発酵食品、医薬品の生産など多岐にわたり、水などに含まれるさまざまな物質の分解つまり浄化もその一つです。
水槽のような限られた空間で魚を飼育する時に問題となるのは魚自体が排泄するアンモニアです。アンモニアには毒性があるために取り除く必要があるのですが、細菌はアンモニアから硝酸へ最終的には窒素にまで分解することで水を浄化してくれます。現在、好適環境水で効率的に浄化が出来る細菌について調べています。
好適環境水は自然海水に含まれる成分をベースに、その成分比を人工的に調整した飼育水です。このような水で魚を飼育すると、どういった効果や影響があるのでしょうか。これまでの研究結果から、現行の好適環境水飼育では、ウナギやマダイでその成長が早まる結果が得られており、現在そのメカニズムの解明に取り組んでいます。一方、クマノミなど高塩分適正の魚では、その行動性を抑制する結果が得られています。これらのことから、魚に最適な飼育水成分と濃度は、その種類によって異なることが考えられ、今後はそれぞれに最適な飼育水の成分と濃度を明らかにする必要があります。
サケやウナギなどの魚類を養殖する際に「水カビ病」という病気が問題になることがあります。水カビ病は、ミズカビ属などの卵菌類と呼ばれる微生物が魚に感染することで発症します。水カビ病になった魚は、体表などが綿毛状の菌糸体に覆われ、炎症を起こして死に至ることがあります。
本事業では、養殖魚を水カビ病から守るための方法を開発するため、好適環境水を用いた研究を行っています。現在は、好適環境水にミズカビ属菌の生長を抑制する効果があるのか、培養実験などにより検証しています。
図の説明好適環境水中で培養したミズカビ属菌の形態の変化(スケールはすべて1mm)。 A:培養開始直後。B:培養開始4日後。C:培養開始8日後。D:培養開始22日後。綿毛状の菌糸はほとんど消失した。
現在、食用のモクズガニは天然資源に頼っていますが、環境の悪化により捕獲量が激減しています。また、天然のモクズガニには寄生虫が潜んでいる場合もあり、安全な水や餌で育てられる陸上での養殖が期待されています。しかし、モクズガニに対する陸上養殖の技術は確立していないので、共食いや逃避など様々な課題があります。私の研究室ではこれらの課題を解決し、低コストで養殖ができる水槽の開発に取り組んでいます。
陸上養殖ができれば、生で食べられる日が来るかもしれませんね。果たして、生食も美味しいのかな?
モクズガニは、中国で有名な上海蟹(チュウゴクモクズガニ)の親戚で、味や姿形もよく似ていることから、高級な水産資源となる可能性を秘めています。一方、最近中国では、環境汚染や寄生虫の問題から、天然の上海蟹に対するリスクが報道されています。そこで本事業では、日本のモクズガニを上海蟹に匹敵するレベルで、安全に陸上で養殖できる技術の開発に取り組んでいます。モクズガニを大きく美味しく育てるためには、どのような餌や飼育環境が必要となるのでしょうか。これまでの研究結果から、好適環境水飼育が可能であること、カボチャやニンジンなどの根菜類を好んで食べることが分かっています。
アクアリウムをより楽しむためには鑑賞する魚や、カニ、エビなどの甲殻類に対して最適な環境で飼育してあげなければなりません。
最適な環境とは水槽へ入れている生物によって異なりますが、一般的に餌の食べ残し、排泄物によって水は汚れていき、次第に最適な環境ではなくなってしまいます。すると、病気になったりやがて死んでしまいます。
そこでその生物にとって健康に生きる環境が、どの程度きれいであったらよいかを実験によって明らかにします。
カニやエビを茹でた時の赤色成分は何という物質によるものでしょう?
答えは「アスタキサンチン」によるものです。これは、タイやサケにも含まれています。アスタキサンチンにはビタミンEの約1000倍の抗酸化作用があるため、体組織の老化を防ぐ効果があると言われています。そのため、サプリメントとしても販売されています。
本ブランディング事業では、日本原産の川ガニであるモクズガニを使って、体内のアスタキサンチン量と赤色の関係を調べています。
美味しそうな赤いカニは、どのくらいのアスタキサンチンが含まれているのでしょうか?